「全社員アプリ作れ」を本当にやった会社で、何が起きたのか

プログラミング経験ゼロの社員に「アプリを1個作ってデプロイしろ」と命じた会社がある。しかも結果は、未経験者の86%が本当に作り切ったという。
何が起きたのか
UI/UXデザインを手がけるグッドパッチ(東証スタンダード上場・社員約270名)のCEO土屋尚史氏が、2026年3月に全社員へ出した指示はシンプルだった。「Claude Codeを使って、1人1つアプリを作り、デプロイまでやりなさい」。
Claude CodeはAnthropicが提供するAIコーディングツールで、自然言語で指示するとコードを書いてくれる。きっかけは土屋氏自身の体験にあったとされている。年間300万円を支払っていた外部SaaSのクローンを、Claude Codeで1日で作れてしまった。その後1ヶ月で20個以上のアプリを自作し、「ゲームが変わる」と確信したらしい。
職種別の達成率が面白い
この取り組みで興味深いのは、エンジニアではなく「それ以外」の結果だった。
| 職種 | デプロイ達成率 |
|---|---|
| 営業 | 96% |
| マーケター | 91% |
| 人事 | 86% |
| デザイナー | 81% |
営業が96%で最も高い。コードを一行も書いたことがない人たちが、AIに指示を出すだけでアプリを完成させている。一方で、デザイナーが81%と最も低かったのは少し意外かもしれない。
作られたアプリも多様だったようで、「1歳の娘のアレルギー負荷試験を2タップで記録するツール」や「推し活ニュースダッシュボード」など、エンジニアに頼むほどでもないけど欲しかった——そういう隙間を埋めるものが多かったとされている。
ネット上では「これは本当にプログラミングと呼べるのか」「結局プロンプトが書けるかどうかの話では」といった議論も出ている
「言語化力」が最大のボトルネックだった
この実験で最も刺さる発見がある。社員の45%が「AIに指示を出す際、自分が何を作りたいかを言葉にする力がボトルネックになった」と回答しているのだ。
つまり、障壁はプログラミングの知識でも、ツールの操作でもなかった。「自分が欲しいものを、具体的に説明できるかどうか」。深夜2時にスマホをいじりながら「なんかいいアプリないかな」と思っている時と、実際に「こういう機能があって、こう動いて、こういう時に使いたい」と言語化できる時の差は、想像以上に大きいということになる。
プログラマーは要らなくなるのか
こういう話が出るたびに浮上するのが「エンジニア不要論」だけど、現時点ではそう単純な話にはなっていない。
AI生成コードの40〜62%にセキュリティ脆弱性が含まれるという調査結果がある。バイブコーディング(自然言語でAIに指示して開発する手法)で作ったものを、セキュリティレビューなしに本番運用するのはかなりリスキーとされている。
グッドパッチ内でも、エンジニアの68%が「全員が安全に作れる仕組みの設計が必要」と感じたという。作れることと、安全に動かし続けることは別の話だ。
「初級プログラマーの仕事は減る。でも設計・品質保証・AI管理ができるエンジニアの需要はむしろ増える」——こうした見方がテック業界では主流になりつつある
ティム・オライリー氏も「AIが書けるコードの量が増えるほど、それを管理・判断できる人間が必要になる」と述べている。消えるのはプログラマーという職業ではなく、「コードを書くだけ」という仕事の定義のほうだろう。
深夜にこの記事を読んでいるあなたへ
グッドパッチの実験が示したのは、「誰でもアプリが作れる」というキラキラした話だけじゃない。
自分が何を欲しいか、どう動いてほしいか、なぜそれが必要か。それを言葉にできる人と、「なんかいい感じに」で止まる人との間に、AIは容赦なく差をつけるということだ。
プログラミングを学ぶかどうかより、「自分の仕事で何を自動化したいか」を具体的に言えるかどうか。たぶんそっちのほうが、今夜考える価値がある。
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