土星の一日は10時間33分38秒だった — 40年解けなかった『自転の謎』を、輪が教えてくれた

土星の一日が何時間なのか、人類は40年あまり確信を持てずにいた。磁場も電波もあてにならないなか、答えを差し出したのは、あの巨大な輪だった。
土星の一日は、10時間33分38秒
土星がくるりと一回転する時間 — つまり土星の「一日」 — が、2019年にようやく一つの数字に落ち着いた。10時間33分38秒。地球の半分にも満たないスピードで、あの巨体がゆっくり回っている。
この数字を出したのは、NASAの探査機カッシーニが残したデータを読み解いたカリフォルニア工科大学の研究チームだ。筆頭著者のクリストファー・マンコビッチらは、土星本体ではなく、そのまわりを取り巻く「輪」を手がかりにした。本体を直接ストップウォッチで測ったわけではない、というところがこの話の妙味になる。
| 計測した方法 | 時期 | 土星の一日 |
|---|---|---|
| ボイジャー(電波) | 1980〜81年 | 約10時間39分 |
| カッシーニ(電波) | 2000年代 | 約10時間47分(時期でズレた) |
| 輪を使った解析 | 2019年 | 10時間33分38秒 |
並べてみると、最初のボイジャーの値より6分ほど短い。たかが6分、されど6分。惑星の自転がそんなに変わるはずはないのに、探査機ごとに違う答えが返ってきた。ここに長年の謎があった。
そもそも、なぜ「一日の長さ」が謎だったのか
ガス惑星には踏める地面がない。土星は大半が水素とヘリウムのガスと液体でできていて、地球でいう「ここが地表」と言える固い面を持たない。だから表面の模様を目印に「いま一周した」と数える、という素朴なやり方が通用しない。
では何を時計のかわりにするか。
木星のときは、磁場が使えた。惑星の内部に引きずられて磁場も一緒に回り、その磁場がほんの少し傾いているおかげで、規則正しい電波のパルスが届く。灯台のビームのように。ところが土星の磁場は、自転軸とほぼ完璧にまっすぐ揃っていた。カッシーニの最終観測によれば、傾きは0.01度未満。灯台のライトは回っているのに、ビームがどこを向いても同じ顔をしている — それでは点滅のリズムが読めない。
電波(土星キロメートル波と呼ばれる)も試された。けれどカッシーニが測った周期は、ボイジャーのときより10時間47分ほどへ伸び、しかも観測時期でフラフラ動いた。これは土星本体の自転そのものではなく、上空の電気を帯びたガスの都合で揺れていた、と研究者は読む。時計が壊れていたのではなく、そもそも時計として使えるものではなかった。
輪を「地震計」にする、という発想
土星は、ベルのようにごくゆっくり震えている。内部のガスのかたまりが揺れ、その重力のムラが、すぐそばを回る輪をかすかに揺さぶる。揺さぶられた輪の特定の場所には、らせん状の波模様ができる。
カッシーニは2017年、燃料が尽きる前の最後の数か月で、土星と輪のあいだの隙間に何度も飛び込んだ。「グランドフィナーレ」と呼ばれた決死のダイブだ。このとき得た輪の精密なデータから、波がどこにできているかを読み取れた。波の位置は土星内部の震えの周期で決まり、その震えは自転の速さに縛られている。つまり輪に刻まれた模様から、触れることのできない土星の中身の回転を逆算した。
この手法はクロノサイズモロジー、ざっくり言えば「土星の地震学」と呼ばれている。地震波の伝わり方から地球の内部構造を探るのと同じ理屈を、何億キロも先のガスの星に当てている、というわけだ。輪は飾りではなく、巨大なセンサーとして働いた。
遠くの巨体の「内側」を、外から読むということ
スマホで時刻を何度も確かめるあなたにとって、「一日」は当たり前に決まっているもの。でも固い地面のない星では、専門家ですら「いま何時か」で40年もめていた。一回転、というあれほど素朴な単位が、足場を失っただけでここまで曖昧になる。そのこと自体が、けっこう不気味でおもしろい。
ただし、この10時間33分38秒も完璧な確定値ではない。前後に2分弱の誤差の幅がついている。輪の波が本当に土星内部の震えだけで説明できるのか、別の要因が混じっていないか、まだ詰めるべき点は残る。研究チーム自身、これを答えの終点ではなく「土星の内部構造をのぞく入り口」と位置づけている。
それでも、表面のない星の一日を、その星の輪に聞く。発想として、これ以上ないくらい筋がいい。
土星の『一日』が10時間33分38秒。輪から逆算したこの答え、あなたはどう受け取る?
参考・出典
- Cassini Ring Seismology as a Probe of Saturn's Interior. I. Rigid Rotation (Christopher Mankovich, Mark S. Marley, Jonathan J. Fortney, Jim Fuller, 2019) — The Astrophysical Journal
- Kronoseismology: Using density waves in Saturn's C ring to probe the planet's interior (Matthew M. Hedman, Philip D. Nicholson, 2013) — The Astronomical Journal
- Saturn's magnetic field revealed by the Cassini Grand Finale (Michele K. Dougherty et al., 2018) — Science