「音楽を聴きながら勉強」は集中力を上げるのか — 心理学者が10年追ったデータの結論

教科書とイヤホンを同時に開く。その習慣、作業の種類によっては逆効果らしい。心理学者ニック・パーハムが10年以上追いかけてきたデータは、思ったよりはっきりした答えを出していた。
歌詞があるかどうかで、答えは割れる
英ウェールズの心理学者Nick Perhamが2011年に発表した研究によると、歌詞付きの音楽は「短い文章や単語列を順番に覚える」「文章を読む」タイプの作業を最大で8〜10%遅らせた。一方、計算問題や単純なクリック作業では、ほとんど影響が出ていない。
作業の中身が「言語処理」を含むかどうかが分岐点。歌詞は脳の中で勝手に処理され、読んでいる文章や暗記中の単語と脳内リソースを取り合う。
俺がこの論文で一番驚いたのは「被験者が自分で選んだ好きな音楽」でもパフォーマンスは落ちていた、という記述だった。「好きな曲だから集中できる」は、少なくとも記憶課題では成立しないらしい。
なぜ歌詞だけがそんなに邪魔をするのか
カギは「無関係音効果(irrelevant sound effect)」と呼ばれる現象にある。周囲の音が短期記憶の成績を下げる現象を指す心理学の用語で、1980年代から知られている。ポイントは「音の大きさ」ではなく「音の変動性」だった。
Perhamらの一連の追試では、変動の激しい音(歌詞付き音楽、複数人の会話)は記憶を妨げ、変動の少ない音(一定のホワイトノイズ、安定したアンビエント)は妨げにくいことが繰り返し示されている。
Lo-fi hip-hopが深夜の学習サウンドトラックとして定着した理由は、たぶんここにある。歌詞がなく、ビートのパターンが安定していて、抑揚が少ない。脳が「無視するコスト」が低い音楽の典型。
運動・創造的作業では、話がきれいに逆転する
2019年、Baylor大学のManuel Gonzalezらが発表した実験では、自由発想を求める「拡散的思考」課題で、高揚感のある音楽が成果を押し上げた。記憶系で足を引っ張る音楽が、アイデア出しでは追い風になる。
ジムでイヤホンを外した瞬間、急に体が重く感じる、あの感覚。気のせいではなく、複数の研究で確認されているれっきとした効果だ。
| 作業の種類 | 歌詞あり音楽 | 歌詞なし音楽 |
|---|---|---|
| 英単語の暗記・読解 | −(成績低下) | ±(やや低下〜中立) |
| 計算問題・単純作業 | ±(ほぼ影響なし) | +(やや有利) |
| アイデア出し・創作 | + | + |
| 運動・反復トレーニング | ++ | + |
個人差という地雷
ここまでをざっくり整理すると、言語・記憶系の勉強なら歌詞なしか無音、単純作業・運動・アイデア出しなら好きな曲でOK、というのが現時点の暫定的な答えになる。
ただ、この分類にも例外がある。2017年にLehmannとSeufertがFrontiers in Psychologyに発表した研究では、被験者の「ワーキングメモリ容量」によって音楽の影響度が大きく違うことが示された。容量が大きい人は音楽の干渉を受けにくく、小さい人ほど影響が深刻になる。
同じ条件でも、脳のスペックで結果が割れる。研究者たちは「自分のワーキングメモリ容量を知り、それに合わせて音響環境をカスタマイズしろ」と提言している。
明日の試験勉強で試すなら、まず「歌詞のないインスト」と「完全無音」を15分ずつ交互にやって、自分にどっちが効くかを観察するのがいちばん早い。研究は平均値を出すが、あなたの脳に効く設定は、あなたの脳でしか測れない。
あなたは勉強中、音楽聴く派?
参考・出典
- Can preference for background music mediate the irrelevant sound effect? (Perham, N. & Vizard, J., 2011) — Applied Cognitive Psychology, 25(4), 625-631
- More than meets the ear: Investigating how music affects cognitive task performance (Gonzalez, M. F. & Aiello, J. R., 2019) — Journal of Experimental Psychology: Applied, 25(3), 431-444
- The influence of background music on learning in the light of different theoretical perspectives and the role of working memory capacity (Lehmann, J. A. M. & Seufert, T., 2017) — Frontiers in Psychology, 8, 1902