白血球は10億年以上前のアメーバと同じ仕組みで動いている — 血液に残る『単細胞時代の記憶』

白血球は10億年以上前のアメーバと同じ仕組みで動いている — 血液に残る『単細胞時代の記憶』
この記事は研究・論文の内容をわかりやすく紹介したものです。詳細は原著論文・原典をご確認ください。

顕微鏡で白血球が細菌を追う映像と、池のアメーバが餌を捕える映像。並べて再生すると、ほとんど見分けがつかない。

顕微鏡の中の奇妙な既視感

白血球の一種「好中球」が大腸菌を追跡する有名な映像がある。撮ったのは細胞生物学者のデヴィッド・ロジャース。1950年代のモノクロフィルムだが、今も研究室や授業で繰り返し再生されている。

好中球は形を変えながら細菌に近づき、ぐにゃりと包み込み、内側に取り込む。

同じ動きを、池に住むアメーバがやっている。獲物を見つけ、伸び、変形し、包み込む。進化的には10億年以上離れているはずなのに、なぜ動きまでそっくりなのか。これが細胞生物学者たちが長年抱えてきた問いだった。

10億年以上前から使われている『狩りの仕組み』

答えは、細胞の中身にあった。

白血球もアメーバも、細胞の内側に「アクチンフィラメント」と呼ばれる繊維状のタンパク質を持っている。これが伸び縮みすることで、細胞は形を変え、移動し、獲物を包み込む。

アクチンを使った食作用(ファゴサイトーシス)は、推定10億〜20億年前の単細胞真核生物がすでに獲得していた仕組み。分子レベルでほぼ手付かずのまま、今もあなたの血管の中で動いている。

進化研究者のあいだでは「ファゴサイトーシスは真核細胞(核を持つ細胞)の発明そのものだ」とすら言われる。細胞が他の細胞を丸ごと飲み込めるようになったから、ミトコンドリアが取り込まれ、複雑な生命への扉が開いた、という仮説だ。

なぜ「祖先がまだ生きている」と表現するのか

研究者たちが時折使う、印象的な言い回しがある。「白血球は、体の中で単細胞生物として動いている」。

人間の体は、進化の過程で「単細胞時代の自分」を捨てたわけではない。必要な機能ごと体内に取り込み、別の役割を与えた。免疫システムはその代表例。

好中球は一個ずつが独立した意思を持つかのように、血流から組織へ這い出し、化学物質の濃度勾配をたどって病原体に近づき、捕食する。動きの原理だけ抜き出せば、池に住むアメーバとほぼ同じ。

人間は「一個の生物」というより、「人間のスケールで協調する細胞の集まり」と見るほうが正確かもしれない。その集まりの中には、太古の単細胞生物の動きをそのまま残しているメンバーがいる。

筆者には、この種の研究の一番面白い視点はここに見える。

ただし、この話には注意点もある

「同じ動き」と「同じ祖先細胞そのもの」は、別の話だ。

白血球がアメーバと同じ分子機構を使っているのは確かだが、白血球が「アメーバの子孫細胞」というわけではない。両者は10億年以上前に共通の単細胞祖先から枝分かれし、それぞれの道で生き残った。引き継がれたのは「動きの設計図」のほう。

それでも、今夜あなたの血管の中を流れている白血球が、太古の単細胞生物とほぼ同じ仕組みで体を守っているという事実は、変わらない。

夜中に体調が崩れて熱が出るとき、その熱を作っているのも、こうした「10億年選手」の働きだったりする。

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