女性の体温は18歳から42歳まで上がり続ける — ウェアラブル端末が暴いた未解明の現象

女性の体温は18歳から42歳まで上がり続ける — ウェアラブル端末が暴いた未解明の現象
この記事は研究・論文の内容をわかりやすく紹介したものです。詳細は原著論文・原典をご確認ください。

18歳から42歳までの24年間、女性の基礎体温はじわじわ上がっていく。原因は誰にもわからない。スマートリングやスマートウォッチから集めた数十万件のデータを解析した米国の研究チームが、そう報告している。

数字で見えた、24年間の上昇カーブ

研究チームが解析したのは、ウェアラブル端末で記録された就寝中の体温データ。年齢別に並べてみると、18歳の平均値から42歳のピークまで、ゆるやかな上り坂を描いた。

18歳から42歳にかけて、女性の夜間体温は平均で約0.3〜0.5℃ほど上昇する傾向が確認された。42歳を過ぎると下がり始める。

下がっていく、ではなく、上がっていく。ここが研究チームを驚かせたポイントらしい。

過去150年の大きな流れで言えば、人類の平均体温は世代を追うごとに下がってきた。スタンフォード大学のジュリー・パーソネット教授らが2020年に発表した研究では、19世紀の37.0℃近辺から現代の36.6℃前後まで、約0.4℃低下していたという。

なのに、女性の人生の中では、体温は逆に上がっていく。世代の流れと逆方向だ。

ホルモン、代謝、炎症 — どの仮説も決定打にならない

なぜ上がるのか。研究チームはいくつかの仮説を挙げる。

ひとつは、月経周期の影響。20代から40代にかけて黄体期(排卵後の高温期のこと)の長さやホルモンプロファイルが変わり、平均体温を底上げしている可能性。ただし周期の各フェーズで分けて解析しても、上昇カーブは消えなかった。

もうひとつは代謝の変化。基礎代謝は20代後半から緩やかに下がるはずなのに、体温は逆に上がる。この食い違いがむしろ謎を深めている。

体脂肪率の増加、慢性的な低レベル炎症(年齢とともに増えると言われるインフラメイジングと呼ばれる現象)、ストレスホルモンの蓄積。候補は並ぶ。どれを単独で取り出しても、24年間の連続的な右肩上がりを説明しきれないと研究チームは述べている。

ウェアラブル端末が変えた研究の景色

研究そのものより、手法の新しさのほうが衝撃かもしれない。

従来の体温研究は、診察室で口の中に体温計を入れて1回測る、その積み重ねだった。サンプルサイズも数百〜数千人規模が普通。

今回はスマートリングが指先の温度を毎晩記録する。何年も、何十万人ぶんも。

従来研究の100倍以上のスケール。スナップショット測定では絶対に見えなかった「年齢による緩やかなカーブ」が、初めて統計的に可視化された。

Apple Women's Health Study(ハーバード公衆衛生大学院との共同研究)など、消費者向けデバイスを医療研究に組み込む動きは急速に広がっている。あなたの手首やベッドサイドのスマートリングが毎晩取り続けているグラフは、同じ種類のデータがどこかの研究室で人類の生理学を書き換えている、その断片だったりする。

「わからない」と書ける研究

ここが面白い、と筆者は読んだ。

普通の論文は「〇〇が原因と示唆される」で締めくくる。今回の研究チームは違う。「上がっている。でも、なぜかは現時点でわからない」とそのまま書いた。

科学で「わからない」を明示することは、安易な原因仮説を断定するよりよほど誠実だ。査読を通った結論が「現象の記述」にとどまっているという事実が、むしろ信頼を増やしている。

項目 従来の研究 ウェアラブル研究
データ規模 数百〜数千人 数十万人
測定タイミング 受診時に1回〜数回 毎晩、数年間連続
加齢との関係 ほぼ横ばい〜微減と認識 18→42歳で明確に上昇
原因の特定 議論の対象になる前 未解明と明記

注意点も無視できない。データの提供者はウェアラブル端末を購入できる層、つまり比較的経済的に余裕のある人に偏る。生活スタイル、運動量、住んでいる地域、人種構成のバイアスを完全には排除できていない。ここで見えたカーブが世界中の女性に当てはまるかは、まだ未確認。

それでも、自分の手首にあるデバイスが数十年単位の人体の謎の解明に参加している可能性は、夜にスマホを眺めながら知るには面白すぎる話ではないか。

あなたは自分の体温の年単位の変化、気にしたことある?

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