ブラックホールの周りに惑星が最大1万個 — 太陽なしで育つ『ブラネット』理論を整理する

恒星がなくても惑星は生まれる。しかも場所はブラックホールの周り。日本の研究チームの計算では、巨大ブラックホール1個につき約1万個できる余地があるという。
太陽がいない場所で、惑星ができる
太陽系の8つの惑星は、46億年前に若い太陽を取り囲んだガスと塵の円盤から育った。中心に輝く星があって、その周りで物質が集まっていく——理科の教科書に載っているのはこの筋書きだ。
鹿児島大学の和田桂一氏らのチームは、ここに別ルートを描いた。中心が恒星でなくても、銀河の真ん中に居座る超大質量ブラックホールでも似たことが起きるという。何でも飲み込むイメージのあるブラックホールだが、そのすぐ外側には、飲み込まれずに残った塵が分厚く漂っている。
「ブラネット」はどう育つのか
チームはこの天体にブラネット(blanet)と名前をつけた。black hole(ブラックホール)とplanet(惑星)をつなげた造語だ。
鍵は温度。ブラックホールのすぐ近くは円盤が高温で、塵も吹き飛ばされてしまう。ところが数光年も離れると様子が変わる。氷が塵の粒にまとわりつき、粒どうしがくっつきやすくなる境界——天文学でいうスノーライン、水が凍る距離の外側だ。そこで微小な塵が少しずつ寄り集まり、小石、岩、そして惑星の芯へと太っていく。同じ仕組みが太陽系でも働いた。
| 太陽系の惑星 | ブラネット(理論) | |
|---|---|---|
| 中心にあるもの | 太陽(恒星) | 超大質量ブラックホール |
| 材料 | ガスと塵の円盤 | ブラックホール周辺の塵 |
| 中心からの距離 | 約6000万〜45億km | 数光年〜数十光年 |
| 形成にかかる時間 | 数百万〜数千万年 | 数億年 |
| 観測 | 済み(8個) | 未確認 |
これは望遠鏡で何かを撮った話ではなく、塵の動きを数式とシミュレーションで追った理論計算だ。和田氏らは2019年に米国の天体物理学誌『The Astrophysical Journal』で枠組みを示し、2021年の続報で「ブラネット」という呼び名と、より重い天体まで育つ可能性を報告している。形成にかかる時間は数億年規模と見積もられた。
『インターステラー』のあの惑星とは別物
ブラックホールの近くに惑星、で映画『インターステラー』が頭をよぎったなら、その連想は悪くない。巨大ブラックホール「ガルガンチュア」のそばを回る水の惑星、1時間が地上の7年に相当したあの星だ。
ただしブラネットはあれとは住所が違う。映画の惑星は時間の流れが歪むほどブラックホールに張りついていたが、ブラネットができるのは数光年も外側。光の速さでも何年もかかる距離で、時間の歪みはほとんど効かない。同じ「ブラックホールの惑星」でもスケールが桁違いだ。
"惑星には太陽がいる"——学校で刷り込まれるこの図式の、中心の星を、自分では燃えないブラックホールに置き換えてしまう。惑星が生まれる舞台は恒星のそばだけではない、と問い直す研究だ。
ただし、まだ誰も見ていない
威勢のいい話だが、ブラネットは1個も見つかっていない。すべて計算の中の存在だ。数光年離れた暗い天体を、何千光年も先の銀河中心で直接とらえるのは、今の望遠鏡には荷が重い。
住めるのか、という疑問もすぐ湧く。ブラックホール周辺は強い放射線が飛び交う環境で、研究チームも生命の話には踏み込んでいない。前提となる塵の濃さやブラックホールの明るさが変われば、1万個という数字も揺れる。
それでも、宇宙のどこに惑星がありうるかという地図に、新しい区画が一つ書き足された。次に夜空を見上げるとき、惑星を抱えているのは光る星だけとは限らない——その一言が頭の片隅に残る。
ブラックホールの周りに惑星がある、という話、信じる?
参考・出典
- Planet Formation around Supermassive Black Holes in the Active Galactic Nuclei (Keiichi Wada, Yusuke Tsukamoto, Eiichiro Kokubo, 2019) — The Astrophysical Journal
- Formation of "Blanets" from Dust Grains around the Supermassive Black Holes in Galaxies (Keiichi Wada, Eiichiro Kokubo, et al., 2021) — The Astrophysical Journal