日本の赤いオーロラ、高度400キロ超まで伸びていた — 緑のオーロラと何が違うのか

日本の夜空に現れる赤いオーロラは、思っているよりずっと高い場所にあるらしい。研究チームの解析で、その光が高度400キロ超 — 国際宇宙ステーションの軌道あたりまで伸びていたとわかった。
赤い光は、ISSが飛ぶ高さにあった
2024年5月10日から11日にかけて、地球は約20年ぶりの規模の磁気嵐に包まれた。磁気嵐とは、太陽から噴き出した大量の電気を帯びた粒子が地球の磁場をかき乱す現象のこと。このとき北海道だけでなく本州の各地でも、北の空がうっすら赤く染まり、スマホを向けた人がSNSに写真をあふれさせた。
研究チームが目をつけたのは、その赤い光の「高さ」だった。地表近くにへばりつく低い帯ではない。北の地平線の向こうから、赤い柱がぬっと立ち上がっていた。離れた場所から撮られた複数の観測を突き合わせて高度を見積もると、光の上端は400キロをゆうに超えていたという。
なぜ、日本のオーロラは赤いのか
オーロラと聞いて浮かぶのは、カーテンみたいに揺れる緑の光だと思う。あれが見えるのは、北極や南極を取り囲む「オーロラ帯」の真下にいる人たち — アラスカ、ノルウェー、カナダ北部の住人だ。
日本はそこからずっと南にある。地磁気緯度 — 地球を一個の磁石とみなしたときの緯度 — が低い。だから日本からは、オーロラ帯が嵐で南へ膨らんだとき、その「てっぺん」だけが北の地平線からのぞく。下のほうの緑の部分は地球の丸みに隠れて見えない。届くのは上端の赤だけ。
1204年2月、歌人・藤原定家は日記『明月記』に「赤気」 — 北の空に立つ赤い光 — を書き留めた。日本人がこの赤い光を見上げてきた歴史は、800年よりずっと長い。
では、なぜ上のほうが赤くなるのか。鍵は酸素原子のクセにある。赤いオーロラの正体は、酸素原子が放つ波長630ナノメートルの光。やっかいなのは、エネルギーをもらった酸素原子がこの赤を手放すまでに約110秒かかること。低い高度では空気が濃く、酸素原子は赤く光る前にほかの粒子とぶつかってエネルギーを奪われてしまう。光れるのは、空気が十分に薄い高い場所に限られる。赤いオーロラが高所でしか起きないのは、この物理のせいだ。
| 緑のオーロラ | 赤いオーロラ | |
|---|---|---|
| 主な高度 | 100〜150キロ | 200〜400キロ超 |
| 光の正体 | 酸素原子(波長557.7nm) | 酸素原子(波長630nm) |
| 光るまでの時間 | 約0.7秒 | 約110秒 |
| 日本で見えるか | ほぼ見えない | 大きな磁気嵐のとき北の空に |
あなたのスマホは、目に見えない光を撮っている
2024年5月、肉眼では何も見えないのにスマホのカメラには赤く写った — そんな報告がいくつもあった。スマホのセンサーは630ナノメートルの赤に素直に反応し、シャッターが開いているあいだ光をため込む。暗がりで色を感じにくい人間の目とは対照的に、ポケットの中の機械は目より敏感な空のセンサーになる。
赤い光を生んだのと同じ宇宙の天気は、もっと地味な形でも生活に触れている。磁気嵐は上空の電離層 — 電気を帯びた大気の層 — を激しく揺らす。電離層が乱れると、そこを通り抜けてくるGPSの電波が狂い、地図アプリの現在地や配車アプリの到着予想を支える測位がぶれる。深夜にタクシーを呼んで、車のアイコンが微妙にズレるあれにも、空の機嫌が関係している。
赤い柱の正体は、まだ揺れている
研究チーム自身、高度の見積もりには幅があると認めている。
オーロラの高さを測るのは難しい。離れた複数の地点から同じ瞬間の写真を撮り、三角測量の要領で奥行きを割り出す。だが市民が撮った写真は、撮影時刻もカメラの向きも正確とは限らない。低緯度の日本からは赤い光をほぼ真横から眺める形になるので、縦の長さが実際より大げさに見える効果も混じる。
サンプルが少ないという弱点も残る。2024年5月の嵐は約20年ぶりの強さで、そもそも比べる相手が多くない。一回の派手な現象から一般論を引き出すには、観測の積み重ねがいる。
太陽は今、約11年周期の活動がピークに近い。次に日本の北の空が赤く染まる夜は、そう遠くないはずだ。そのときスマホを構えるあなたは、高度400キロでくり広げられる物理現象を、ポケットの機械で記録していることになる。
日本でまた赤いオーロラが見えたら、どうする?
参考・出典
- Low-latitude red auroras over Japan during the May 2024 geomagnetic superstorm(査読済み解析論文群) (Hayakawa, H. ほか(複数機関), 2025) — 学術誌(地球惑星科学・宇宙天気分野)
- Inclined zenith aurora over Kyoto on 17 September 1770: Graphical evidence of extreme magnetic storm (Kataoka, R., Iwahashi, K., 2017) — Space Weather
- Long-lasting Extreme Magnetic Storm Activities in 1770 Found in Historical Documents (Hayakawa, H. ほか, 2017) — The Astrophysical Journal Letters