不安が強い人の腸内で、減っている菌がある ― 腸内細菌と気分の最新研究

不安が強い人の腸内には、ある種の菌が少ない傾向がある ― 近年の腸内細菌研究で、こんな相関が繰り返し報告されている。
腸が気分を作っているという、ちょっと信じがたい話
「腸脳相関(gut-brain axis)」という言葉が、ここ数年で論文の世界を席巻している。腸と脳が、迷走神経・ホルモン・免疫・代謝産物を通じて双方向に情報をやり取りしている、という考え方だ。
とくに注目されているのが「サイコバイオティクス(psychobiotics)」 ― メンタルヘルスに影響を与えうる腸内細菌のこと。Lactobacillus、Bifidobacterium、Faecalibacterium prausnitzii。論文を開くたびに、この辺の名前が踊っている。
研究の中身を、1段落で
研究チームは1,054人の腸内細菌をシーケンス解析し、参加者の生活の質(QOL)・抑うつスコアと照合した。年齢・性別・抗うつ薬服用といった交絡因子は補正済み、と論文には明記されている。生活の質スコアが低い人ほど、ドーパミン代謝に関係する菌が少なかった ― これが論文の核心。ここで重要なのは「相関」が見つかったということ。「この菌を増やせば気分が良くなる」と直接示したわけではない。
俺の腸の中身、何で決まるのか
食事の影響は、わりとはっきりしている。
| 摂取するもの | 腸内で増えやすい菌 | 関係する作用 |
|---|---|---|
| 食物繊維(野菜、全粒穀物、豆類) | Faecalibacterium prausnitzii | 短鎖脂肪酸(酪酸)を産生 |
| 発酵食品(納豆、ヨーグルト、キムチ、味噌) | Lactobacillus、Bifidobacterium | 炎症マーカー低下と相関 |
| ポリフェノール(緑茶、ベリー、カカオ) | Akkermansia muciniphila | 代謝・腸バリア改善と関連 |
スタンフォード大の Sonnenburg 研究室が2021年に Cell 誌に出した介入研究では、10週間にわたって発酵食品の摂取量を増やした参加者で、腸内細菌の多様性が増し、19種類の炎症マーカーが低下した。観察研究ではなく介入研究なので、相関より一歩踏み込んだ結果になっている。
ただし、サプリで全部解決はしない
市販のプロビオティクス・サプリで気分が変わる ― そう期待したくなる。だが、現状の研究はそこまで踏み込んでいない。
特定の菌株(strain)を経口摂取しても、腸に定着するとは限らない。多くは腸を通過して便と一緒に出ていくだけ、というのが現実。
「腸脳相関の臨床応用には、まだ多くのギャップがある」 ― Cryan ら、Physiological Reviews 誌のレビュー論文(2019)より
それでも、食事の方向性ははっきりしている。食物繊維と発酵食品を増やす。野菜の種類を多くする。これは、いまの研究の地点でも自信を持って言える話だ。
腸内細菌が気分に影響するという研究、信じられる?
夜中の不安が、腸内の何かと絡んでいる可能性 ― ありそうで、まだ言い切れない。でも、明日の昼に味噌汁を一杯増やすくらいなら、コストはほぼゼロ。論文の限界を理解したうえで、ちょっと試してみる、というくらいの距離感が、いまの研究との健康的な付き合い方なのかもしれない。
参考・出典
- The neuroactive potential of the human gut microbiota in quality of life and depression (Valles-Colomer M, Falony G, Darzi Y, et al., 2019) — Nature Microbiology
- The Microbiota-Gut-Brain Axis (Cryan JF, O'Riordan KJ, Cowan CSM, et al., 2019) — Physiological Reviews
- Gut-microbiota-targeted diets modulate human immune status (Wastyk HC, Fragiadakis GK, Perelman D, et al., 2021) — Cell