じゃがいもを冷蔵庫に入れてはいけない理由 — 低温で進む「糖化」とアクリルアミドの話

「野菜は冷蔵庫に入れておけば間違いない」。その思い込みが、じゃがいもには当てはまらない。
むしろ冷蔵庫は、じゃがいもの味と安全性をこっそり削っていく場所でもある。5月のいま、スーパーには新じゃがが並ぶ。買って帰ったあと、どこに置くか。そこで仕上がりが変わってくる。
なぜ冷蔵庫のじゃがいもは「甘く」なるのか
冷えたじゃがいもを食べて、ほんのり甘いと感じたことはないだろうか。あれは気のせいではなかった。
じゃがいものデンプンは、保存温度がおよそ8℃を下回るあたりから糖へと分解されていく。「低温糖化」と呼ばれる現象だ。冷蔵庫の野菜室は、まさにこの温度帯に入る。数日も置けば、じゃがいもは確実に甘いほうへ傾いていく。
甘くなったじゃがいもを揚げると、何が生まれるか
甘いだけなら、好みの問題で済む。やっかいなのは、その糖を高温で加熱したときに起きることのほうだ。
120℃を超える加熱で、じゃがいもの糖はアミノ酸の一種・アスパラギンと反応する。こんがりした焼き色をつくるメイラード反応の仲間。だがこの反応は、副産物としてアクリルアミドという物質も生み出す。元の糖が多いほど、その量は増える。
アクリルアミドは動物実験で発がん性が指摘されている成分。普段の食事で即座に健康を損なう、という話ではない。ただ、わざわざ自分の手で増やす理由もない。冷蔵庫で甘くしたじゃがいもを揚げるのは、その「増やす側」の選択になってしまう。
正解は「常温の冷暗所」、ただし春は少し事情が変わる
では、じゃがいもはどこに置くのが正しいのか。答えは、昔ながらの「冷暗所」に戻ってくる。
風通しがよく、光の当たらない場所。温度はおよそ10〜15℃が目安とされる。新聞紙に包んで紙袋か段ボールに入れておけば、家庭ではそれで足りる。光に当て続けると皮が緑色に変わり、ソラニンという苦み成分が増えるので、暗さだけは守りたい。
| 保存場所 | 起きること | 評価 |
|---|---|---|
| 冷蔵庫の野菜室 | 低温糖化で甘くなり、揚げ物でアクリルアミドが増えやすい | × |
| 常温の冷暗所 | デンプンのまま安定。風通しと暗さが条件 | ◎ |
| 生のまま冷凍 | 解凍するとスカスカの食感に | × |
| 加熱して冷凍(マッシュなど) | 食感は変わるが保存はきく | △ |
ひとつ小ネタを。じゃがいもの箱にりんごを1個まぎれ込ませておくと、芽が出にくくなる。りんごが出すエチレンガスが、発芽を抑えるからだ。昔の知恵には、ちゃんと理屈がある。
とはいえ5月に出回る新じゃがは水分が多く、長く置けば傷みやすい。これは保存より、早めに食べきる前提でいい。気温が上がる初夏は、常温といっても置き場所の風通しがものを言う。
冷蔵庫で損をするのは、じゃがいもだけじゃない
「冷やせば長持ち」が裏目に出る食材は、ほかにもある。代表格がパンだ。
パンに含まれるデンプンは、0〜数℃の温度帯でいちばん速く老化する。つまり冷蔵庫は、パンがパサつくのを早める場所。常温で数日以内に食べきるか、それを超えるなら冷凍したほうが、ふっくら感は残る。
パンの居場所は、常温か冷凍。いちばん中途半端なのが、冷蔵庫だった。
バナナやトマトも冷蔵庫が苦手な顔ぶれ。南国育ちの果物や夏野菜は低温障害を起こし、バナナは皮が黒ずみ、トマトは熟す力を失う。まだ青いトマトなら、常温の窓辺に置いたほうが赤くおいしくなる。
まとめ
冷蔵庫は万能ではない。食材ごとに、得意な居場所がある。
- じゃがいもは冷蔵庫NG。低温糖化で甘くなり、揚げるとアクリルアミドが増えやすい
- 正解は常温の冷暗所。風通し・暗さ・10〜15℃が目安
- パンは冷蔵庫が最悪手。常温か冷凍へ。バナナ・トマトも低温が苦手
今夜、台所の野菜室をのぞいてみてほしい。じゃがいもがそこにいたら、紙袋へ引っ越しの時間。常識は、案外こういう足元でひっくり返る。
あなたの家、じゃがいもはどこに置いてる?