太陽嵐で鉄道信号が誤作動する — 線路が『電池』になる物理を、英国研究チームが計算した

太陽嵐で鉄道信号が誤作動する — 線路が『電池』になる物理を、英国研究チームが計算した
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青信号が突然、赤に切り替わる。あるいはその逆、赤が青に化ける。太陽の表面で起きる磁気嵐が、地上を走る鉄道の信号システムを誤作動させ得る ― そんな計算結果が学術誌『Space Weather』に出ている。

「太陽嵐で停電」までは聞いたことがあるかもしれない。電車の信号が原因で事故、まで想像が及んだ人は少ないはず。

線路は、長さ100kmの巨大な導線になっている

そもそも、鉄道の信号はどうやって「ここに電車がいる」と知るのか。仕組みは意外と古典的で、線路の2本のレールに弱い電気を流しておき、車輪が両方のレールに触れることで回路がショートする。ショートを検知したら「在線あり」→赤信号、という単純な電気回路だ。これを「軌道回路」と呼ぶ。

問題は、レール自体が何十キロも続く金属の長い導線になっていること。ここに磁気嵐が直撃するとどうなるか。

地球磁場が太陽風で揺さぶられると、地表に「地磁気誘導電流(GIC)」が発生する。長距離の送電線・パイプライン・鉄道レールは、この電流を勝手に拾ってしまう巨大なアンテナとして機能する。

英国ランカスター大学のCameron Patterson博士らのチームは2023〜2024年にかけて、英国の鉄道信号システムを実際にモデル化し、過去の地磁気嵐データを流し込んでシミュレーションした。結果、軌道回路にGICが「もう一つの電流」として割り込み、信号判定をひっくり返す状況が再現された。

怖いのは「青→赤」より、「赤→青」のほう

誤作動には2種類ある。研究チームは前者を「right-side failure(安全側故障)」、後者を「wrong-side failure(危険側故障)」と呼び分けている。

前者は、電車がいないのに信号が赤になるパターン。これは安全側に倒れるので、最悪でもダイヤが乱れるだけで済む。本当にやばいのは後者、つまり電車がいるのに信号が青を出してしまう場合。後続列車が「進入してよい」と判断して突っ込めば、追突になる。

研究チームのモデルでは、中規模の地磁気嵐でも危険側故障が発生し得る条件が確認された。「これまで、太陽活動と鉄道安全の関係はほぼ議論されてこなかった」(Patterson博士、ランカスター大学プレスリリース)

論文の射程は英国の信号システム ― 特にロンドン中央部などで使われている軌道回路方式 ― に限られている。ただし類似の方式は世界中で稼働しており、レールが長く、地磁気の影響を受けやすい高緯度地域ほどリスクは上がる。

1859年クラスの嵐が、いま来たら

1859年9月、英国の天文学者キャリントンが観測した史上最大級の太陽嵐は、当時のイギリスの電信線を発火させたことで知られる。同規模が現代に直撃したらどうなるか、というのが地球物理界隈の定番テーマで、最近の研究はそこに「鉄道信号」を新たに加えた格好だ。

論文のシミュレーション結果:キャリントン級の嵐の場合、英国の信号システムにおいて危険側故障が複数地点で発生し得る。誤作動が継続する時間は数分から数十分のオーダー。

数十分、と書くと短く感じる。だが時速200kmで走る列車にとっては、十分すぎる時間。

太陽嵐で鉄道事故、現実味あると思う?

日本の新幹線は、どうなのか

ここからは論文の射程の外なので、推測込みで読んでほしい。

日本は地磁気緯度が比較的低く、北欧やカナダほどGICの影響を受けにくいとされている。加えて新幹線のATCはデジタル無線・列車制御コンピュータと多重化されており、軌道回路一本に依存していない。英国のような古典的軌道回路がそのまま誤動作シナリオに乗るとは考えにくい構成だ。

ただし在来線の一部は、いまも電気的に英国に近い軌道回路を使っている。日本での同種シミュレーションは公開された範囲ではまだ数が少なく、「絶対に大丈夫」と言い切れる根拠は揃っていない、というのが筆者の読み。

太陽活動は、いま極大期に入っている

11年周期で増減する太陽活動は、2024〜2026年ごろが今サイクルの極大期にあたるとされている。2024年5月にはオーロラが日本の北海道でも観測されたほどの大きな嵐が起きた。次の「キャリントン級」がいつ来るかは誰にも分からないが、確率はゼロではない。

夜空にオーロラが見えたら綺麗だな、で済む話ではないかもしれない、ということ。終電に乗る前に、空を見上げてみてもいい。

地磁気擾乱レベル Kp指数 レール誘導電圧(推定) 信号システムへの影響
静穏時 0〜2 0.1V未満 影響なし(通常運行)
小規模嵐 (G1) 5 約1〜2V 軌道回路に微弱なノイズ
中規模嵐 (G3) 7 約3〜5V 青信号→赤信号への誤表示リスク
大規模嵐 (G4〜G5) 8〜9 10V超 赤信号→青信号の致命的誤作動の可能性
カリントン級 (1859年相当) 9+ 数十V以上 広域での信号機能停止・列車衝突リスク

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