環境意識の高い富裕層が、最も多くのCO2を出していた — 排出を決めるのは信条より年収だった

「環境のためにできることはやっている」と答えた人ほど、一年で出す二酸化炭素は多かった。足跡を決めていたのは、意識の高さではなく年収。
「エコな自負」は、排出量を下げていなかった
環境問題を心配し、ゴミの分別を欠かさず、自分は地球にやさしく暮らしているつもりでいる。その同じ人が、平均より多くの二酸化炭素を出していた。気候研究者のKimberly Nicholasたちが繰り返し指摘してきたのは、この居心地の悪い逆説だ。
からくりは拍子抜けするほど単純で、環境意識が高い層には、そもそも高所得者が多く混じっている。広い家、二台目の車、年に何度かの旅行。頭の中で何を考えていようと、暮らしの規模そのものが排出量を押し上げてしまう。
研究者が物差しに使うのが「カーボンフットプリント」、つまり食事も移動も電気も買い物も全部ひっくるめて、その人の生活が生む温室効果ガスを足し合わせた量だ。これで測ると、環境への態度と実際の排出は、きれいには重ならない。心の中の「正しさ」と、現実の行動のあいだに開く溝——研究の世界で「態度・行動ギャップ」と呼ばれてきたズレが、ここでも顔を出す。
偏りは、どれくらいの偏りなのか
経済学者のLucas Chancelが2022年に学術誌Nature Sustainabilityで示した分析は、1990年から2019年の世界の排出を所得層ごとに切り分けた。上の箱に入れた数字がその結論にあたる。上位1%だけでも、下位半分の人類すべてを足したより多くを排出していた、という推計まである。
2021年にNature Energyへ載った別の論文で、研究チームはこう書いている。社会経済的な地位の高い人々は、排出において「不釣り合いに大きな役割」を担っている、と。しかも厄介なのは、彼らがただ多く出すだけの存在ではない点だ。消費の手本として、投資家として、票を持つ有権者として、周りの選択まで左右する立場にいる。だからこそ動かす意味も大きい、というのが論文の主張だった。
マイボトルより、年に一度のフライトが効いてしまう
ここが、深夜にこれを読んでいるあなたの生活と地続きになる部分。「環境にいいこと」と聞いて思い浮かぶ行動は、効き目の大きさがまるで違う。Kimberly NicholasとSeth Wynesが2017年にまとめた試算を、削減量の大きい順に並べてみる。
| 行動 | 年間のCO2削減量(目安) |
|---|---|
| 車を手放す | 約2.4トン |
| 大西洋横断フライトを1回控える | 約1.6トン |
| 食事を植物中心にする | 約0.8トン |
| リサイクルを徹底する | 約0.2トン |
| 白熱灯をLEDに替える | 約0.1トン |
出典: Wynes & Nicholas (2017), Environmental Research Letters
分別やストロー削減で稼げるのは、年に数十キロから0.2トンほど。対して大西洋を一往復する飛行機を一度見送るだけで、その何倍もが浮く。エコバッグを律儀に持ち歩く人が年に四回ロングフライトに乗っていたら、足し算はあっさり逆転する。「小さな善行」を積むより「大きな出費」を一つ減らすほうが桁違いに効く、と数字は言っている。そして大きな出費ができるのは、たいてい財布に余裕のある人だ——エコな富裕層が最大の排出源になる話の芯は、ここにある。
この「エコな富裕層が最大の排出源」という話、どう受け取った?
ただ、「お前が悪い」で終わらせると見誤る
気をつけたいのは、これが相関であって因果ではないこと。環境意識を持つと排出が増える、という話ではない。所得という共通の原因が、意識の高さと排出量の両方を同時に引き上げているだけ、と読むほうが筋が通る。
もうひとつ。「結局は金持ちの心がけ次第」と個人の道徳に丸投げすると、肝心なところを取りこぼす。年に一度のフライトを我慢できるかどうかより、安くて速い鉄道があるか、電気がどれだけ脱炭素化されているか、住む街が車なしで回るか。選べる選択肢の形そのものを決めているのは、個人の意志ではなく社会の仕組みのほうだ。
次に「環境のために何かしている」と口にしたくなったとき、ためしに去年の飛行機の回数を思い出してみる。心がけと排出量は、案外つながっていない。それを知っているだけでも、見える景色は少し変わる。
参考・出典
- The role of high-socioeconomic-status people in locking in or rapidly reducing energy-driven greenhouse gas emissions (Kristian S. Nielsen, Kimberly A. Nicholas, Felix Creutzig, Thomas Dietz, Paul C. Stern, 2021) — Nature Energy
- Global carbon inequality over 1990–2019 (Lucas Chancel, 2022) — Nature Sustainability
- The climate mitigation gap: education and government recommendations miss the most effective individual actions (Seth Wynes, Kimberly A. Nicholas, 2017) — Environmental Research Letters