Steamで成人向けゲームを販売したら、送金が銀行で止まった — 誰がコンテンツを線引きするのか

海外経由でSteamに成人向けゲームを出した国内の開発者が、売上を日本へ送金しようとして銀行に止められた——そんな報告がネットで広がっている。売れたのに、代金が国内に入ってこない。
Steamで売れた。でも代金が日本に届かない
きっかけは、ある国内のゲーム開発者の投稿だったとされる。海外のパブリッシャーを通してSteamで成人向けゲームを販売し、その売上を日本の口座へ送金しようとしたところ、国内の銀行側で送金が止まった——そんな経緯がネット上で共有され、ニュースサイトでも取り上げられた。
ゲームは売れている。Steamのストアでは決済が普通に通っている。それなのに、最後の「開発者の口座に入金される」段階でつまずいた。どこにも「販売禁止」とは書かれていないのに、お金の流れだけが止まる。この居心地の悪さが、投稿が広がった理由なんだと思う。
止まった理由が何だったのか、現時点ではっきりしない部分も多い。マネーロンダリング対策の確認だった可能性もあるし、コンテンツの種類が引っかかった可能性もある。ただ、ここ1年の流れを並べると、これが単発の事故には見えてこない。
銀行はゲームの中身を審査していない
この話を「銀行が成人向けゲームを嫌った」と読むと、たぶん本質を外す。
2025年の夏ごろ、Steamを運営するValveが成人向けコンテンツに関する規約を更新したとの報道がある。新しいルールには、決済会社やカードネットワーク、銀行などの基準に反するコンテンツを禁じる、という趣旨の文言が加わったとされる。ほぼ同じ時期に、インディーゲーム配信サイトのitch.ioも成人向け作品を検索結果から一時的に外した。
その引き金として報じられているのが、決済会社への外部からの圧力だ。海外の活動家団体がVisaやMastercard、PayPalに対してキャンペーンを行い、特定の作品の取り扱いをやめるよう求めた、との報道がある。カード会社が動けば、その下流にいるプラットフォームも従わざるを得ない。プラットフォームが従えば、そのまた下流にある銀行口座への送金チェックにまで、同じ基準が降りていく。
日本の銀行は、その長い連鎖のいちばん端にいる。「銀行がゲームを審査した」のではなく、「上流で決まった基準が、銀行の事務処理にまで反映された」と見るほうが実態に近い。
「合法なのに、なぜカード会社が」 — 割れるネットの声
この件へのネットの反応は、きれいに割れている。
「日本の法律では合法な表現を、なぜ海外のカード会社の社内ルールで消されなきゃいけないのか分からない」という声もある。
法律は、一応みんなで決めたルールで、改正のプロセスも公開されている。一方で決済会社の審査基準は民間企業の内部文書で、いつ・どう変わったのか外からはほぼ見えない。「誰も禁止と言っていないのに、気づくと消えている」感覚への不気味さが、この声には滲んでいる。
「とはいえ決済を止められたらプラットフォームごと潰れる。Valveも板挟みなんだから、そこは責められない」という意見も出ている。
これも分かる。Steamが決済手段を失えば、成人向けかどうかに関係なく全ジャンルの開発者が一斉に困る。火の粉が成人向けジャンルだけで止まっている今のうちは、まだマシだという見方も成り立つ。
見えない検閲者は、誰なのか
俺がこの件でいちばん引っかかったのは、規制の「順番」が逆さまになっていることだ。
本来なら、いちばん強い線引きは法律のはずだった。その内側でプラットフォームが規約を作り、いちばん内側で各事業者が運用を決める。ところが今は、決済会社の社内基準がいちばん外側の枠になっていて、法律よりそっちが効いている。ここ1年を並べると、その逆転がはっきり見えてくる。
| 時期 | 起きたとされること |
|---|---|
| 2025年7月ごろ | Steamが成人向けコンテンツの規約を更新。決済会社の基準を理由に挙げたと報じられる |
| ほぼ同時期 | itch.ioが成人向け作品を検索結果から一時的に非表示に |
| 2025年後半 | 活動家団体によるカード会社への圧力キャンペーンが報じられる |
| 2026年5月 | 国内開発者の「Steam売上の送金が銀行で止まった」という投稿が広く読まれる |
これは「海外の話」では終わらない。日本の同人・インディーゲームの多くは、販売も決済も海外のプラットフォームに乗っている。Steamは事実上の世界標準で、個人開発者が国内だけで完結させるほうがむしろ珍しい。日本の表現をめぐる議論は長らく「どこで売るか・誰に見せないか」というゾーニング中心だった。だが今いちばん効いているのは、「そもそも代金を受け取れるか」という決済のレイヤーなんじゃないか。ゾーニングは表現を場所で仕切るだけだが、決済規制は表現の息の根に近いところを握っている。
わかっていること、わかっていないこと
わかっていないこと:個別の送金が止まった正確な理由。今後どのジャンルまで線引きが及ぶか。日本の銀行や決済各社が実際にどう運用していくか。
確かなのは、「合法かどうか」と「売って代金を受け取れるか」が、もう同じ意味じゃなくなっている点だ。
成人向けゲームは、たまたま最初に風が当たっただけかもしれない。決済が表現の線を引けるなら、その線は次にどこへでも動かせる。Steamのウィッシュリストを開いて「欲しい」を押した作品が、来年も同じ場所にあるとは限らない。
決済会社がコンテンツの線引きをすること、どう思う?