謎の宇宙電波バーストの正体、銀河系内の死にかけた星が解いた — 1000分の1秒に放たれた閃光の話

謎の宇宙電波バーストの正体、銀河系内の死にかけた星が解いた — 1000分の1秒に放たれた閃光の話
この記事は研究・論文の内容をわかりやすく紹介したものです。詳細は原著論文・原典をご確認ください。

1000分の1秒のあいだに、太陽が何日もかけて出すエネルギーをまとめて吐き出す。宇宙の彼方から届くその閃光が何者なのか、長いあいだ誰にもわからなかった。答えは、銀河系の中の一点から返ってきた。

ミリ秒だけ光って、消える

高速電波バースト、英語の頭文字を取ってFRB(Fast Radio Burst)と呼ばれる現象がある。文字どおり、電波が一瞬だけ強烈に光って消える。長さはだいたい1000分の1秒。まばたきよりはるかに速い。

最初に見つかったのは2007年。オーストラリアのパークス電波望遠鏡が、過去の観測データの中から、一発だけ異様に明るい電波の点を掘り出した。発見者の名前を取って「ローリマー・バースト」と呼ばれている。問題は、それが二度と繰り返さなかったこと。再現できない一発の信号を、人はなかなか信じない。

FRBが1000分の1秒で放つエネルギーは、太陽が数日かけて放射する量に匹敵する。しかも多くは数十億光年の彼方からやってくる。それでも地球に届くほど明るい。

正体については、それこそ百家争鳴だった。中性子星の衝突、ブラックホールの蒸発、果ては「地球外文明の通信ではないか」という説まで、まじめな論文として書かれた。決め手がなかったから。

2020年4月28日、銀河系の中で「同じ光」が出た

転機は、宇宙の遠くではなく、すぐ近くから来た。

2020年4月28日、カナダの電波望遠鏡CHIMEと、アメリカの小型観測装置STARE2が、ほぼ同時に強烈な電波の一発を捉えた。発生源をたどると、銀河系の中にある「SGR 1935+2154」という天体だった。これはマグネターと呼ばれる種類の星で、太陽より重い星が一生を終えて潰れた中性子星のうち、けた違いに強い磁場を持つものを指す。その磁場の強さは、冷蔵庫のマグネットのざっと数百兆倍とされる。

研究チームによれば、このとき出た電波の特徴は、遠くの宇宙で観測されてきたFRBとよく似ていた。遠すぎて正体のつかめなかった信号と、銀河系内の「正体のわかっている星」が出した信号が、同じ顔をしていた。

遠くのFRBと、近くのマグネターが出した電波が「同じ言語」で書かれていた。意味のわからなかった文字列に、ようやく読み方の対応表が手に入った——ロゼッタストーンと呼ばれるゆえん。

古代エジプトの神聖文字は、同じ内容がギリシャ語で併記された石板(ロゼッタストーン)が見つかって初めて解読された。FRB研究にとって、銀河系内のこの一発がその石板にあたる、という見立てだ。

 遠くのFRB2020年の銀河系内バースト
距離数億〜数十億光年約3万光年(銀河系内)
持続時間ミリ秒ミリ秒
発生源不明だったマグネター(判明)

その電波は、いまあなたの体も通り抜けている

遠い話に聞こえるかもしれない。だが、FRBの「電波」は、スマホが基地局とやり取りしているのと物理的には同じ仲間だ。周波数も携帯やWi-Fiが使う帯域とそう離れていない。違うのは出どころと桁外れのエネルギーだけ。

深夜にスマホを握っているあいだも、はるか彼方の死にかけた星が放った電波は、絶え間なく地球に降りそそいで、建物も、あなたの体も、静かに通り抜けていく。害はない。ただ薄すぎて、巨大な望遠鏡でなければ拾えないというだけ。

CHIMEは現在、こうしたバーストを年に数百〜数千発という単位で記録している。空のあちこちで、星が最期に放つ閃光が、いまも点滅し続けている。

「謎の宇宙電波の正体はマグネター」——この説明、どう受け取った?

ただし、これで全部解けたわけではない

マグネターが犯人の一人だと示せたのは大きい。でも、すべてのFRBがマグネターから来ているとまでは言えていない。

理由のひとつが、繰り返すタイプの存在だ。FRBには一発で終わるものと、同じ場所から何度も来るものがある。後者の中には、年老いた星ばかりが集まる球状星団の中から届いたものもあり、誕生したばかりの若いマグネターという描像とは噛み合わない。発生源は一種類ではないかもしれない、と複数の研究チームが指摘している。

2020年の銀河系内バーストにしても、遠くのFRBに比べればエネルギーは控えめだった。同じ仕組みが、宇宙最強クラスのバーストまでそのまま説明できるのか。そこはまだ詰め切れていない。

対応表は手に入った。読める文字が一気に増えた。それでも、石板に刻まれた文章の全部を読み終えたわけではない。続きは、いまこの瞬間も空に書き込まれている。

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