暑い夜は、世界から眠りを奪っていた — 68カ国・約4万7000人の睡眠記録が示した気候の代償

暑くなった夜、世界中で人の眠りが少しずつ削られている。デンマークの研究チームが68カ国・およそ4万7000人の睡眠記録を解析したところ、気温が上がるほど寝つきが悪くなっていた。今夜あなたが寝苦しいのは、根性の問題じゃなくて、寝室の温度のせいかもしれない。
気温が上がると、寝つきが遅くなる
研究チーム(コペンハーゲン大学のKelton Minorら)が見つけたのは、シンプルで地味な事実だった。外気温が平年より高い夜ほど、人は眠る時間が短くなる。しかも削られ方に特徴があって、朝早く目が覚めるのではなく、夜に寝つけない。眠りに入るタイミングが後ろにずれていく。
特に効くのが「とても暑い夜」だ。気温が30度を超える晩は、睡眠時間がおよそ14分削られていた。たった14分と思うかもしれない。だが、それが夏のあいだ毎晩積み重なると、無視できない量になる。
腕のセンサーが集めた、約700万夜
この数字、アンケートで聞いたものじゃない。参加者の手首に巻いた睡眠トラッカーが、実際に眠った時間を毎晩記録している。集まったのは0カ国、約700万夜分のデータ。それを各地の気象記録と突き合わせた。2022年に学術誌『One Earth』へ載った研究だ。
気温と睡眠を結びつけた研究はこれまでもあったけれど、ここまで大規模に、しかも実測のセンサーデータでやったものは珍しい。「暑いと眠れない気がする」という体感に、世界規模の数字が初めて追いついた格好になる。
体は、深部体温を下げて眠っている
なぜ暑いと眠れないのか。鍵は体温の仕組みにある。人は眠りに入るとき、手足の血管を開いて熱を逃がし、体の内側の温度(深部体温という、内臓まわりの温度のこと)をわずかに下げる。この「冷えていく」動きが、眠気のスイッチになっている。
ところが寝室が暑いと、熱がうまく逃げない。深部体温が下がりきらず、スイッチが入るのが遅れる。寝苦しい夜に天井を見つめてしまうのは、気合いが足りないからではなく、体が冷えるのを待っている状態だった、と読める。
そして、誰もが同じだけ削られるわけではない。
あなたは、夏の寝苦しさを「暑さのせい」だと思う?
ただし、慣れは織り込めていない
面白い研究だけれど、限界もある。これは膨大な観測データの相関を見たもので、「暑さが寝不足を引き起こした」と実験で証明したわけではない。著者ら自身、人が暑さに少しずつ順応していく効果や、エアコンの普及が今後どこまで進むかを、完全には織り込めていないと述べている。
参加者の多くが比較的豊かな国のスマホ・ウェアラブル利用者という偏りもある。本当に暑さの厳しい地域、エアコンの届かない人々の睡眠は、むしろこのデータより深く削られている可能性が高い。
それでも、ひとつだけ確からしいことが残る。気温の話は、北極の氷や数十年後の海面の話だと思われがちだ。けれど少なくともこの研究は、その影響がもっと手前――今夜の自分の枕元まで来ていることを、700万夜分の眠りで示してみせた。次に寝つけない夜があったら、窓の外の気温を一度だけ確かめてみるといい。