親しい仲間は数頭だけ — チンパンジーの『友達の輪』が人間と重なるという研究

チンパンジーにも、毎日つるむ『親友』と、ただの顔見知りがいた。ボノボも同じ。霊長類の付き合い方が、人間の友達関係とそっくりの『層』を持っていたという研究がある。
群れの中に、はっきりした「内側の輪」があった
群れで暮らす動物、と聞くと、全員がなんとなく平等にまざって生きている絵を思い浮かべるかもしれない。実際は違っていた。
チンパンジーやボノボを長期間観察すると、一頭一頭が「誰と長く一緒にいるか」「誰の毛づくろいをするか」をかなり選んでいる。特定の相手とだけ濃い時間を過ごし、その外側に薄い付き合いの相手が広がる。研究者はこの構造を、人間の友人関係に見られる『層』とよく似たものだと読んでいる。
面白いのは、毛づくろいの相手が偏ること。誰にでも均等に背中を預けるわけではない。信頼できる相手にだけ、無防備な時間を差し出している。
どうやって「友達の数」を測ったのか
こうした研究の土台にあるのは、何年も同じ群れを追いかける地道な観察記録だ。誰が誰のそばにいたか、誰が誰に毛づくろいをしたか。膨大な行動データを集めて、関係の強さをネットワークとして描き出す。
その地図を眺めると、線が太く集中する場所と、細く散らばる場所が分かれる。人間の社会ネットワーク解析とほとんど同じ手法で、サルの友達関係が可視化できてしまう。
毛づくろいは、ノミ取りのためだけの行動ではない。誰を選ぶかが、その個体の「社会的な立ち位置」を映す鏡になっている。
これは、あなたの友達リストの話でもある
人間の友人関係には、よく知られた数字がある。人類学者ロビン・ダンバーが提唱した『ダンバー数』だ。脳の処理能力から考えると、人が安定した関係を保てる相手はおよそ150人が上限だという仮説。
しかも、その150人はのっぺり並んでいない。本当に困ったとき頼れるのは5人前後、親しい友人で15人ほど、その外に50人、150人と層になって広がる。チンパンジーやボノボに見えた同心円は、この人間の構造と気味が悪いほど重なる。
| 輪の位置 | 人間(ダンバーの層) | 霊長類で見えたもの |
|---|---|---|
| いちばん内側 | 頼れる相手 約5人 | 毛づくろいを交わす数頭 |
| 中間 | 親しい友人 約15〜50人 | ときどき行動を共にする仲間 |
| いちばん外側 | 知り合い 約150人 | 同じ群れの顔見知り |
フォロワーが何万人いても孤独だ、という話は使い古された。でも研究側から見ると、それは当たり前の帰結に近い。広く薄い関係をいくら増やしても、内側の輪は数頭分しか用意されていないのだから。
あなたが「本当に困ったとき頼れる」と思える相手は何人?
ただ、サルと人間を重ねすぎる危うさもある
ここで一歩引いておきたい。「だから人間とサルは同じ」と言い切るのは早い。観察できる群れの数は限られているし、野生個体の関係を完璧に追うのは難しい。「親しさ」を毛づくろいや一緒にいた時間で測ること自体、一つの解釈にすぎない。
研究チームも、構造が「似ている」と述べているのであって、心の中まで同じだと証明したわけではない。人間の友情には、言葉や約束や、何年も会わなくても続く記憶がある。チンパンジーの輪と、あなたの輪を同じ定規で測れるかは、まだ開いた問いのままだ。
それでも、深夜にひとりで連絡先をスクロールしながら「結局、心を許せるのは数人だな」と気づくとき。その感覚の根っこが、数百万年前から続く霊長類の設計にあるかもしれない、というのは少し救いになる。少なすぎるわけじゃない。たぶん、それで足りるようにできている。
参考・出典
- The social brain hypothesis (Robin I. M. Dunbar, 1998) — Evolutionary Anthropology
- The benefits of social capital: close social bonds among female baboons enhance offspring survival (Joan B. Silk et al., 2009) — Proceedings of the Royal Society B
- Discrete hierarchical organization of social group sizes (W.-X. Zhou, D. Sornette, R. A. Hill, R. I. M. Dunbar, 2005) — Proceedings of the Royal Society B