太陽がなくても海は凍らない — 銀河をさまよう「はぐれ惑星」の衛星に、数十億年もつ生命の条件を探したモデル計算

太陽がなくても海は凍らない — 銀河をさまよう「はぐれ惑星」の衛星に、数十億年もつ生命の条件を探したモデル計算
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恒星の光が一切届かない、銀河を当てもなく漂う惑星。その周りを回る小さな衛星の地下に、数十億年ものあいだ液体の水が保たれるかもしれない。あるモデル計算が、そんな「闇の中の海」の可能性を描き出した。

太陽のない惑星が、宇宙には大量にある

どの恒星にも縛られず、星間空間をさまよう惑星がある。専門的には自由浮遊惑星、俗に「はぐれ惑星(rogue planet)」と呼ばれる。生まれたばかりの惑星系で、巨大な兄弟惑星の重力に弾き飛ばされて宇宙に放り出された、というのが有力なシナリオだ。

数としては少なくない。2023年、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡がオリオン大星雲の中に、木星ほどの質量を持つ天体が二つペアで漂う「JuMBO」と呼ばれる奇妙な天体を数十個見つけている。銀河全体では、恒星の数に匹敵するか、それ以上のはぐれ惑星が漂っているという見積もりもある。

どの太陽にも属さず、真っ暗な星間空間を漂う惑星。表面温度は氷点をはるかに下回る。生命を探す場所として、これ以上ない悪条件に見える。

表面は凍てついている。光合成は当然できない。生命にとって最悪の住所のはずだ。ところが、惑星そのものではなく「その衛星」に目を移すと、話が変わってくる。

カギは太陽じゃなく、引っ張られる力

木星の衛星エウロパやイオを思い出してほしい。太陽から遠く離れているのに、内部は熱い。理由は潮汐加熱(ちょうせきかねつ)── 親である巨大惑星の重力に絶え間なく引っ張られ、衛星の内部がこねられるように変形して、その摩擦で熱が生まれる現象だ。エウロパの氷の下に液体の海があると考えられているのも、この熱のおかげとされる。

同じことが、はぐれ惑星の衛星でも起きうる。親の惑星が太陽の代わりに熱を供給する。光ではなく、力で。

イタリアの研究チームが2021年に国際宇宙生物学誌(International Journal of Astrobiology)で発表したモデル計算は、ここをさらに踏み込んだ。木星サイズのはぐれ惑星と、地球くらいの大きさの衛星を一つ想定し、潮汐加熱に加えて、宇宙線が衛星の厚い大気に降り注いで起こす化学反応まで組み込んでいる。

研究チームの試算では、想定した衛星の表面には地球の海の約1万分の1ほどの水しか保てない。だが大気が分厚ければ、その水を液体のまま数十億年維持できる可能性があるという。

水の量そのものは地球よりずっと少ない。それでも「液体のまま、桁違いに長い時間」というのが効いてくる。生命が芽生えるには時間がかかる。地球でも、海ができてから最初の生命の痕跡までに数億年が流れたとされる。

「ハビタブルゾーン」という言葉の前提が揺れる

地球外生命の話になると、ほぼ必ず「ハビタブルゾーン」という言葉が出てくる。恒星から近すぎず遠すぎず、水が液体でいられる距離の帯のこと。生命探しは長らく、この帯の中にある惑星を探す作業だった。

条件従来の発想はぐれ惑星の衛星
熱源恒星の光親惑星による潮汐加熱
必要な距離恒星からの「ちょうどいい帯」恒星は不要
持続時間恒星の寿命に依存数十億年(試算上)

はぐれ惑星の衛星が成り立つなら、その帯の外側 ── つまり恒星のまったく届かない暗黒地帯にも、生命の居場所が広がることになる。アイデア自体は新しくない。1999年、惑星科学者デヴィッド・スティーブンソンが学術誌ネイチャーで、厚い水素大気をまとったはぐれ惑星が地熱を閉じ込めて表面に液体の水を保てるかもしれない、という短い論考を発表している。2011年には別のチームが、星間空間に浮かぶ生命可能惑星のモデルを「シュテッペンウルフ(草原の狼)」と名づけて提案した。

深夜にスマホでこの記事を読んでいるあなたの頭上、何光年も先の真っ暗な宇宙に、太陽を持たない海が漂っている ── 確証はないが、物理的にはありうる。その想像のスケールが、この研究の面白さだ。

太陽のない衛星に生命がいる可能性、どう受け取った?

ただし、これは観測ではなく「計算上の話」

ここを誤解してはいけない。研究チームが見たのは、宇宙のどこかに浮かぶ実在の衛星ではない。コンピューターの中で組み立てた、条件を仮定したモデルの振る舞いだ。そもそも、はぐれ惑星の周りに衛星がどれだけ存在するのかすら、まだほとんどわかっていない。

確かめる手段も限られている。自分で光らないはぐれ惑星は見つけるだけで一苦労で、その小さな衛星の大気や水を直接調べる技術は、現状ない。研究チーム自身、これは「ありうる経路を示した一例」であって、生命の存在を主張するものではないと位置づけている。

それでも、惑星探しの道具は急速に進歩している。今後打ち上げ予定のローマン宇宙望遠鏡は、重力レンズという手法ではぐれ惑星を大量に検出すると期待されている。母数が増えれば、衛星を持つ一個が見つかる日も来るかもしれない。

太陽がなければ生命は無理、という前提が、ひとつのモデル計算で静かに揺らいだ。空が暗いことと、生命がいないことは、同じではないらしい。

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