アヒルの体に肉食恐竜の爪 — モンゴルで見つかった『サギのように魚を狩る』ラプトルの読み方

首は白鳥、前あしは水かきのような形、爪はまぎれもなく肉食恐竜。モンゴルの砂岩から出てきた体長数十センチのラプトルが、サギのように水辺で立ち止まり、魚を待ち伏せしていたかもしれない。
『ジュラシック・パーク』のラプトルとは、似ても似つかない
恐竜のラプトルと聞いて浮かぶのは、たぶん群れで走って襲ってくるあいつだ。鋭い鉤爪、噛みつき、陸の狩人。
ハルシュカラプトル(Halszkaraptor escuilliei)という小型ラプトルは、そのイメージをまるごと裏切ってくる。体はアヒルくらい。首だけが不自然に長く、白鳥みたいにカーブしている。吻(ふん)は平たくて、小さな歯がびっしり並ぶ。鉤爪はちゃんと肉食恐竜のものなのに、シルエットは水鳥に近い。
研究チームはこの妙なつくりを、「半水生」——つまり水辺と陸の両方で暮らした生き物のしるしだと読んだ。
密猟された化石を、放射光で透かして見た
この標本、話がややこしい。もともと正規の発掘品ではなく、密猟されて化石市場を流れていたものだった。岩に半分埋まったまま研究者の手に渡ったため、「そもそも本物か」「複数の骨を貼り合わせた偽物では」という疑いがついて回った。
そこで使われたのが、欧州にある巨大な放射光施設のシンクロトロン。強力なX線で岩ごと中身を3D解析し、骨が一体の個体としてつながっていることを確認した。骨を割らずに内部まで透かして見る、医療用CTの超強化版のような手法だ。
解析を率いたアンドレア・カウ(Andrea Cau)らは、長い首、吻の感覚神経が通っていたとみられる構造、前あしの形などを根拠に、「水中の獲物を探って捕る暮らし」を提案している。
なぜ「サギのように狩る」と読めるのか
カギは首だ。長い首をS字に折りたたみ、獲物が近づいた瞬間に一気に伸ばして突く——これは現代のサギやアオサギが毎日やっている狩りの型そのもの。ハルシュカラプトルの首の骨は、まさにこの動きに向いた形をしていた、と研究チームは見ている。
| 特徴 | ハルシュカラプトル | 現代のサギ | ヴェロキラプトル |
|---|---|---|---|
| 首 | 長くS字に曲がる | 長くS字に曲がる | 短く太い |
| 狩り方(推定) | 水辺で待ち伏せ・突く | 水辺で待ち伏せ・突く | 陸で追って噛む |
| 主な獲物(推定) | 魚・小動物 | 魚・カエル | 小型動物 |
恐竜=ティラノサウルスの巨体、という刷り込みは強い。でも中生代の水辺には、こういう『地味で器用な狩人』もいたらしい。今あなたが川辺で見かけるサギの、あの止まったまま魚を狙う姿——あれと同じ商売を、7500万年前のラプトルがやっていたかもしれない、という話だ。鳥は恐竜の生き残りだと言われるが、狩りの型まで通じているとしたら、ちょっとぞくっとする。
『サギのように魚を狩るラプトル』、あなたはどう受け取った?
ただし、骨だけで暮らしぶりは決まらない
ここまで読むと完成された話に見えるが、専門家のあいだでは決着していない。半水生という解釈に慎重な研究者もいる。首が長いこと、歯が多いことは、必ずしも『水中で狩った』証明にはならないからだ。陸でも長い首は使えるし、化石は当時の行動そのものを録画してくれるわけではない。
とはいえ、ラプトルの仲間が水に適応していた証拠は、ほかにも出てきている。2022年に同じくモンゴルで報告されたナトヴェナトル(Natovenator)は、潜水に向いた流線形の胴体を持つドロマエオサウルス類とされた。陸を駆ける狩人、という一枚絵だけでは、もう恐竜は語りきれないらしい。
次に川辺でサギが微動だにせず水面をにらんでいたら、思い出してほしい。あの姿勢、ずいぶん長く続く流派かもしれない。
参考・出典
- Synchrotron scanning reveals amphibious ecomorphology in a new clade of bird-like dinosaurs (Andrea Cau et al., 2017) — Nature
- A non-avian dinosaur with a streamlined body exhibits potential adaptations for swimming (Natovenator polydontus) (Sungjin Lee, Yuong-Nam Lee et al., 2022) — Communications Biology